ニックスの勝利とハードボイルドワンダーランド

「勝ったから何だって言うのよ」と彼女は言った。

僕はGABANのブラックペッパーを手に持ったまま彼女を見た。彼女の視線はテーブルの上のMacbookに注がれている。僕は彼女が何を言おうとしているのか、見当もつかなかった。

「よくわからないな」と僕は言った。「勝利は勝利じゃないか。確かに危うい場面もあったし、延長に突入しなきゃ勝てないような試合でもなかった。リーとジャックは外し過ぎたかもしれない。それでも勝ちは勝ちだよ」

「リーとジャックが外すのは構わないわよ。私が言いたいのは、なんで目下再建中の若手集団に、ホームでOTまでもつれ込むのかってこと」

「OTまでもつれても勝ちは勝ちじゃないか。楽しい試合だったし、観ていて何の不満もなかったけどな」と僕は言った。手元には茹で上がったパスタが、GABANのブラックペッパーを振られるのをただ待っている。

「何の不満もない?冗談でしょう。ディフェンスは20年履き続けたパンツみたいにゆるゆるだったわ。オフェンスは単調だし、ポルジンギスが不調だったら目も当てられなかったわ。ビーズリーなんて3Qまではただの給料泥棒じゃない」

「やれやれ」と僕は言った。

「確かにビーズリーはひどかった。それは認めるよ。ただひどいのはビーズリーだけじゃない。君が推していたレイカーズイングラムだってニックスの間諜かと思うくらいシュートを外したじゃないか。むろん、イングラムがニックスのスパイだなんて本気で疑っているわけじゃない。君は、イングラムレイカーズ再建の要だと熱く語っていたよね。今季、イングラムは若干二十歳の選手とは思えない数字を残している。ただ今日はエースの働きは果たせなかった。そういうこともある。誰だってそうさ。戦略と戦術。相性とコンディション。これらが噛み合って初めて結果を出せるんだから」

彼女はキッチン台に置かれたまま熱を失いつつあるパスタを眺めながら、僕の言葉をじっくり咀嚼しているようだった。

「やたらと長文を書いたわりに、まるで内容がないのね」と彼女は呆れたように言った。

確かに、と僕は思った。